「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案」の意見公募に際し、以下のとおりの意見を提出しました。

前置き

たまたま自分が第11条に関わる事業をやっていたので。
文章はほぼ要約で、重要なところだけまとめていますが、大体同じような主旨を2020/02/01付けでメールにて送りました。

 

意見概略

 「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案」(以下『素案』)第11条において、事業者は県民のネット・ゲーム依存症のための予防に「配慮し、協力する」ことを求められていますが、事業者が利用者に対して「香川県民かどうか」を知りうる術は現実的には存在せず、「配慮し、協力する」することは技術的に不可能です。

 したがって、事業者としては『素案』第11条を施行するために香川県民のみを限定的に対象とすることはできず、全国民、全世界のユーザー向けに「配慮し、協力する」必要があります。当然『素案』で定められた条項の影響力が香川県外にも及ぼすことになるため、2020年2月成立、同年4月施行という粗雑な遂行ではなく、有識者との議論を重ねて、慎重に成立・施行させるべきです。

 

 また、現在のネットワークインフラ(特に2020年以降主流となる「5G」)の提供は、現行の医療・福祉社会においてより迅速により適格に普及することが望まれますが、そのバックボーンとなる財源は公共施設のニーズよりも個人消費者のニーズの方が多大であることは明らかです。

 携帯端末の利用を制限し、潜在的な消費者のニーズが少なくなれば、それだけネットワークインフラの整備が遅くなり、香川県内の医療・福祉の確保の阻害要因になりはしないかと懸念されます。

 

 上記2件について更なる議論・幅広い意見公募を行い、条例参画に対し公意思を以て望まれることを切実に願います。 

 

第11条の「配慮、協力」が事業者にとって技術的に不可能である理由

 事業者が提供するアプリ上において、利用者が「香川県民かどうか」を知りうる手段は存在しません。

 もちろん、技術的に可能な範囲として言及するならば、利用者の地域を特定するための手段として「(GoogleLocationServiceAPI、もしくはAppleCoreLocationAPIによる)GPSを利用した位置情報の取得」があるでしょう。

 しかしこの方法では以下の2点により意味を成しません。

  1. 利用者側で「位置情報の提供を無効にすること」が可能であり、かつ事業者側ではGoogle/Appleが規約に定める開発者ポリシー上、利用者側の位置情報提供を強制的に有効にすることは禁じられていること(あくまで利用者の意思に基づかなければならない)。
  2. 利用者側で位置情報を偽装することは比較的容易であること(例えばAndroidの「Fake GPS」などのアプリを使えば誰でも可能。iOSでもプログラムを自作すれば簡単に偽装可能である)。

 よって事業者側は、GPSにより「香川県民の健全なゲーム利用を保証すること」は不可能です。

 これ以外の方法としては、旧来からあるネットワークゲーム同様、利用者が事前に一意のユーザーアカウントを作り、そこに住所を含んだ情報をアカウントに紐づける方法がありますが、ライフタイムが推し量れぬサービスにおいて、個人情報の漏洩に繋がる恐れがある行為は好ましくなく、そのセキュリティ対策は事業者の手に余るものです。

 

 すなわち、『素案』の遂行のために、第11条に関わる事業者は「香川県民だけを特定して何らかの策を講じること」は不可能であり、実質的に「全国民」「全世界」の利用者に対し等しく規定制限を設ける必要があります。言うまでもなく、この措置は利用者・事業者ともに多くの弊害要素を生じさせます。『素案』を香川県民、香川県議会のみで意思決定するのは非常に粗暴であると言わざるをえません。


 ゆえに、協力義務が課されることになる「全国民」に対し意見公募を行い、また有識者との議論を重ね、慎重に成立・施行させるべきです。

 

将来的なIoTビジネス社会において、香川県が「ネットワークインフラ八分」に遭う可能性について

 今や世の中のあらゆるものがインターネットに繋がっており、IoTビジネスの波は年々勢いを増しています。医療福祉の分野におけるインフォームド・アクション、気象災害の遠隔監視、防犯のためのモニタリングなど、今やIoTデバイスの数は300億を超えており、また2020年度においては総務省の指導のもと、幅広い社会的課題の解決に向けた第5世代ネットワーク(5G)の導入を目指している最中です。

 

 ネットワークインフラを整備するためには、整備するための消費者のニーズがなければ成し遂げることは難しく、現状最もニーズが高いのは、個人消費者が利用するスマートフォンに他なりません。またIoTビジネスの先導者たる通信事業者においては、インフラの普及は慈善奉仕目的などではなく営利目的であることは明白であり、ニーズの高いところから普及浸透させようとするのは、至極必然の摂理と言えます。

 

 この時代において「スマートフォンの利用頻度を下げ、消費者の需要を減少させる」行為は、こういったIoTビジネス社会の情勢に逆行する愚考愚行であり、遠からぬ将来、香川県がIoTビジネスの恩恵を受けられぬ後進地域になることが懸念されます。

 

付則:香川県が本当に「ネット・ゲーム依存症対策」に向かうのであれば

 以下、個人的な私感に基づくものであるため付則としますが。


 元来WHOが提唱する「ネット・ゲーム依存症」すなわちICD-11に収載されているゲーム障害の定義では「他の生活上の関心事や日常生活よりもゲームを選ぶほどゲームを優先する」症例と定めており、これはフロイトの定める自我の再適用メカニズムにおける逃避行動にすぎません。

 

 逆を言えば「逃避行動に至る根源の治療」をしなければ、情緒不安な状態で別の逃避に向かうだけです。それが健全的な方面に向かえば良いでしょうが、残念ながらそれは稀なものです。香川県内の青少年がタバコや酒、薬物などに向かう暗い未来となれば、目も当てられません。

 

 香川県が本当に依存症対策に向かうのであれば、もっと入念なリサーチ、家庭教育・学校教育におけるセミナーを踏まえ、現状の児童学童において「根源治療すべきもの(いじめ、家庭内不和など)」に踏み込んだ対策を練っていただきたいものです。


 以下は参考になるかと思います。

  文部科学省:平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
  https://www.mext.go.jp/content/1410392.pdf